通勤電車で、席に着いた途端…
いそいそとポーチを取り出し、化粧をはじめる女性がいますよね?
ひょっとすると、あなたも「電車で化粧するぐらい平気よ」なんて思っているかもしれませんが…
大勢の人に囲まれているのに、なぜ彼女たちは平気な顔で化粧をすることができるのでしょうか。
この心理は、人が誰でももっている「パーソナル・スペース」がキーワードになります。
パーソナル·スペースとは、人が自分の周りにもっている、他人の侵入を拒む“なわばり”のようなもののことです。
カフェやバーのカウンターで、無意識にひとつ離れたイスに座ったりするのも、その心理の影響なのです。
パーソナル・スペースは、そこにいる相手との関係によって、距離が違ってきます…
つまり、親しい人は近づけますが、そうでない人とは距離をおくということです。
アメリカの文化人類学者ホールによる、日常的な人間関係で使われている距離の意識は次の通りです。
➀親密な人との距離(0~45センチ)
恋人の体温を感じたり、においをかげる。
親しい人にふれることができる。
➁表情が読みとれる距離(45~120センチ)
手をのばせば、なんとか相手に届く。
私的な交渉などの場合に使われる。
個人距離ともいう。
➂ビジネスの距離(120~360センチ)
相手にふれたり、微妙な表情を読みとることはできない。
会議や商談はだいたいこの距離で行なわれる。
ただし、日本の会議室は、欧米にくらべるとせまいので、もう少し距離が近いかもしれない。
➃個人的な関係がない距離(360センチ~)
個人的な人間関係が存在しにくい距離。
公衆距離ともいう。
混雑した電車内では、当然、人との距離は➀の“親密な人との距離”になっています。
ところが人間は、親密でない人がこの距離に入ってくると、大きなストレスを感じてしまうのです。
混雑した電車の不快の原因は、実はこのあたりにあるのです。
混雑した電車内では、人はぎりぎりのパーソナル・スペースをカプセルのような仮想のバリアで守り、他人を遮断します。
他者と自分の関係そのものを遮断すれば、もうそこは人前ではないのです。
そして、カプセルの中に入ってしまうと、周りがぜんぜん見えなくなってきます…
だから、化粧することも平気なのです。
逆にいえば、彼女にとって、周囲の人は人ではありません。
単なる“物”、“壁”、“風景”にすぎないのです。
パーソナル・スペースの意識は、あくまで「対人間」…
つまり、人間ではないモノを意識する必要はなくなるわけです。
化粧をしているとき、じっと鏡をのぞきこむ女性は、自分だけの世界に入っています。
女性は鏡を見るのが大好き…
それは、周囲をすべて遮断し、自己に集中できる“恍惚(こうこつ)”の時間となるからです。
ちなみに恍惚とは、物事に心をうばわれて、うっとりすることを言います。
ただし、同じ車両に友人や同僚が乗っていて、あとで「さっき、電車で化粧してたよね?」と言われたりしたら、「いやだ、恥ずかしい!」と言うに違いありません…
なぜなら、友人や同僚は“物”や“壁”、“風景”ではないからです。
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