仏教経典は実に約8万4000種類もあるとされています。
その中で日本人にも馴染み深いのは「般若心経(はんにゃしんきょう)」でしょう。
これは、約300文字の短い経なのですが、元となったのは、全600巻にもおよぶ長大な経典「大般若波羅蜜多経(だいはんにゃはらみったきょう)」なのです。
「般若」は「最高の智慧(ちえ)」、「心」は「心臓」を意味しています。
つまり、「大般若波羅蜜多経」の真髄をコンパクトにまとめたものが、「般若心経」なのです。
そんな「般若心経」で説かれているのは、「空」の精神です。
「空」というのは、仏教の教えの中でもかなり難解なものなのですが、簡単にいえば、「この世の人やものに固定的な実体はなく、すべては移ろいゆく関係性の中にしかない。だから、何ごとにもとらわれてはいけない。」ということなのです。
これを経典では、「色即是空(しきそくぜくう)、空即是色(くうそくぜしき)」という言葉で表わしています。
「色」とは、世の中の森羅万象のことですが、一つ注意しておきたいのは、「空」とは、「虚無」とか「むなしい」という意味ではないということです。
「あらゆることが、相対的な関係性の中にしかなく、すべては変化していく」のです。
ところで、「般若心経」の漢訳の一つは、7世紀に三蔵法師(玄奘)が訳したものだといわれています。
「西遊記」の物語には、魔物を撃退しようと玄奘が様々な経を唱えても効果がなく、最後に「般若心経」を唱えたら危機が去ったという話も
あるのです。
実際、「般若心経」の最後は、「羯諦羯諦波羅羯諦波羅僧羯諦(ぎゃていぎゃていはらぎゃていはらそうぎゃてい)」という原典のサンスクリット語の音をそのまま漢字に置きかえた言葉で締められており、これは一種の呪文のようなもので、神秘的な効果があるといいます。
史実では、玄奘が「般若心経」を訳した事実はない…
というのが現在の定説です。
しかし難解な「空」の哲学を理解できなくても、唱えるだけでご利益のある経として、「般若心経」は今も多くの人々に親しまれているは事実です。
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