少女に取り憑いた悪魔と、神父との壮絶な戦いを描いた映画「エクソシスト」…
この映画の大ヒットにより、一般的 にも広く知られるよいになったのが、タイトルでもある「エクソシスト」という職業です。
本来、エクソシスト(Exorcist)とは、悪魔祓いの儀式=エクソシズムを行うカトリック系の神父のことを指します。
各宗派にも悪罵祓いの儀式は残っているのですが、カトリックではエクソシズムを準秘蹟(サクラメンターレ)に位置づけており、バチカンではエクソシストの職務を教会法で定めるなど、他の宗派とは比べものにならないほど重要視しているのです。
現在、その総数は公表されていないものの、バチカンから正式に許可を受けた公式エクソシストは、イタリア国内だけで300人ほど存在するといいます。
2007年、第265代ローマ教皇で719年ぶりに自由な意思によって生前退位し名誉教皇となったベネディクト16世は、約200人のエクソシストた
ちと面会した際に、今後は世界の各教区に少なくとも一人のエクソシストを任命するよう司教たちに促していく意向を表明しました。
もし、これが実現していれば、将来的には2千人を超えるエクソシストが誕生していることになります。
聖書には、イエス自身による悪魔祓いのエピソードがいくつか存在します。
また、そのころの聖人たちの記述からも、2世紀~4世紀はじめごろの初期キリスト教時代から、エクソシズムは頻繁に行なわれていたことが分かっています。
当時の儀式には魔除けの効果があるとされた灰や塩、マグダラのマリアがイエスの足を洗った香油、聖人の遺物などが使用されていました。
以降もそれらの道具が使われていましたが、儀式の形式はまちまちだったため、416年、時の教皇イノケンティウス1世が「エクソシズムを行なえるのは司教によって委任された司祭に限る」と宣言したのです。
カトリックではこの宣言が現在も遵守されており、教会から正式に許可を受けた司祭だけがエクソシズムを行なえるとしています。
1614年「ローマ典礼儀式書」が編纂されると、儀式の形や祈りの言葉はほぼ完成し、儀式に使われる道具も十字架、聖水、聖油、聖香などに統一化されていきます。
また「ローマ典礼儀式書」にはエクソシズムに臨む司祭に必要な心構えなども記され、1952年の改定版ではエクソシズムへの過信を警告する
と共に、医学や心理学の重要性を意識した表現がつけ加えられました。
実は近代ヨーロッパでは、エクソシズムと深い関わりを持つ事件が何度も発生しています…
その代表的な事件として挙げられるのが、映画「エミリー・ローズ」のモデルとなった「アンネリーゼ・ミシェル」の事件です。
ドイツの敬虔なカトリックの家庭に生まれた彼女は、1968年突然体が硬直して倒れたり、硬直により喋れなくなったりしました。
精神科医に「てんかん」と診断され、1973年には「壁に悪魔の顔が見える」などと話すようになります。
これを受け、家族は教会にエクソシズムを要請…
当初はアンネリーゼを悪魔憑きと認めなかった教会ですが、1975年にこれを認め、エクソシズムを許可します。
司祭の尋問により、彼女には6体の悪魔が取り憑いていることが判明…
開始から10ヶ月にわたりエクソシズムが行なわれましたが、1976年7月、わずか23歳の若さで他界します。
死亡時の彼女の体重は31キログラムしかなく、病院に入れていれば助かったかもしれないとして、両親と神父は裁判にかけられた結果、過失致死罪で懲役(執行猶予6ヵ月)の有罪となりました。
この事件がきっかけとなり、エクソシズムを行なう際には医学的なケアも必要であると、教会は「ローマ典礼儀式書」を一部改定、明文化されたのでした。
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