ところによって、あるいは人によって評価がまったく異なるというのはよくある話ですが、時間によって扱いが180度違うというのは蜘蛛くらいではないでしょうか。
なにしろ、朝の蜘蛛は大事にされ、夜の蜘蛛は抹殺されてしまうのですから…
朝の蜘蛛は大切にし、夜の蜘蛛は殺してしまえという言い伝えは、表現こそ違え、全国的に見られるもののようです。
これは、どういう意味なのでしょうか?…
朝蜘蛛が現れると、待ち人が来る、福があるから大事にし、夜の蜘蛛は泥棒が入る前兆、よくないことが起こるきざしだから排除する…
おおむね、この言い伝えはこのように考えられています。
昔から、日本では蜘蛛には霊力があると思われていたようです。
「日本書紀」には、朝、蜘蛛が巣を張ったので、允恭天皇(いんぎょうてんのう)が夜に訪ねてくるかもしれないと思う衣通郎姫(そとおりのいらつめ)の歌が載っています。
蜘蛛の行動で愛しい人の来訪を占っているのです。
また、漁師たちは「蜘蛛の巣が多いときは大風がなく、少ないときは嵐になる」…
と、蜘蛛の巣を見て天候の判断をしていたそうです。
朝見る蜘蛛は吉凶判断として役に立つ存在であった一方で、夜に出会う蜘蛛は不気味この上ありません…
そもそも「夜爪を切ると親の死に目に会えない」とか「夜口笛を吹くと蛇が出る」という言い伝えもあるように、夜の闇は異界であり、危険に満ちた世界だと考えられてきました。
そのような魔の時間帯に、一本の細い糸に垂れ下がった蜘蛛の姿は、魔の使い…
よくない前兆と見られたのかもしれません。
ただ、少数派ですが、夜蜘蛛を吉事とする言い伝えが残る地方もありますし、夜蜘蛛が悪さをするというわけではないようです。
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