いじめ問題は、子どもの世界だけにあるわけではありません。
大人の世界にも、広く蔓延(まんえん)しています。
パワー・ハラスメント(上司によるいやがらせ)と呼ばれる職場でのいじめ、近所に住んでいる人たちの間でのいじめ、家庭内でのいじめもあります。
幼児虐待は、家庭内での深刻ないじめのケースだと言えるでしょう。
なぜ、こんなにいじめ問題は増えてしまったのでしょうか?…
ナチス・ドイツからアメリカに亡命したユダヤ人心理学者のレヴィンは、➀専制型、➁民主型、➂放任型の各リーダーのもとで、10歳の少年それぞれ5名ずつのグループをつくらせ、工作などの課題にとり組ませました。
そして、各グループの特徴を観察する実験を行なったのです。
➀の専制型のリーダーは、少年たちの行動をすべて指示し、作業の全体については教えず、作業がうまくできない子どもには罰を与え、できる子をえこひいきしました。
結果、生産性は高かったものの、子どもたちの不満度も高くなり、その不満はグループ内の弱い子にぶつけられました。
つまり、いじめが起こったわけです。
そして、いじめられていた子どもがいなくなると、さらに他の子がいじめの対象となったのです。
これに対して、➁の民主型リーダーの指導を受けたグループでは、生産性は専制型リーダーのグループと同じように高く、子どもたちの作業に対する満足度も高かったのです。
民主型のリーダーは、作業の全体像を子どもたちに教え、話しあいながら進めました。
リーダーも作業に参加し、全員で励まし合ったりしたところ、いじめは起こらなかったといいます。
➂の放任型リーダーは、作業の全体像を教えず、指示も出さず、叱りもしませんでした。
結果、生産性が低く、子どもたちの達成感も満足度も低かったのです。
不満のある子どもは、他の子どもをいじめてうっぷんを晴らすようになっていきます…
つまり、リーダーのタイプや指導の方法により、いじめの発生率は異なるのです。
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このように欲求不満を他の人にぶつけることによっていじめが起きます…
では、いじめを行なうのは、どんな心理なのでしょうか?
「むかつく」と思って、ある子をいじめる…
いじめることによって胸がすっとする…
これは「サディズム」の心理です。
つまり、他人に物理的、心理的な苦痛を与えて満足するという心理のことです。
この心理は、集団で一人をいじめるときにさらに強くなります。
集団になると「群集心理」がはたらいて、1対1のときよりもいじめの内容がエスカレートするからです。
いじめがエスカレートするもう一つの理由に、いじめる側の“いじめられる側にされる不安”があります。
レヴィンの実験結果にもあるように、欲求不満をもっている集団の中では、スケープゴート(犠牲者)が常に求められるからです。
いじめの対象がいなくなれば、別の人間がいじめられることになる…
子どもたちは、「いつ自分がいじめられる側になるかわからない」という不安から、いじめをエスカレートさせていくのです。
ある意味では、いじめることといじめられることは紙一重だといえるでしょう。
このように、いじめ問題には社会や会社、学校における人間関係や、人間の心理などに見られる専制的雰囲気がからみあっているのです。
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