社内でトラブルや事故が発生した場合、原因や責任者を追及することになります。
このときに重要視されるのは、その場に居合わせた人たちの証言でしょう。
しかし、記憶というのは私たちが考えているよりもはるかに曖昧(あいまい)です。
たとえば、ある実験によると、記憶したことの40%がわずか30分で消失してしまうことがわかりました。
その後も記憶は消失しつづけ、24時間後には66%、3日後には75%そして30日後には80%も忘れてしまうのです。
しかも、記憶は相手に対する印象や誘導によって簡単に書き換えられたり、自分に都合よく再構築されてしまいます。
これを「無意識の転移」と言い、特に嫌悪感やある種の先入観を持っている相手に対して起こりやすいと言われています。
このことからもわかる通り、目撃証言だけに頼って原因を探っていると、重大なミスが発生することがあります。
たとえば、自動車事故のビデオを見てもらった被験者に対し、「壊れたヘッドライトを見ましたか?」、「壊れたヘッドライトがありましたが、それを見ましたか?」という2パターンの質問をしたところ、後者の質問に「はい」と答えた人が圧倒的に多くなりました。
次に「車は何キロぐらいで激突しましたか?」と聞いた場合の答えは、平均推定速度40.8キロでしたが、「車は何キロぐらいでぶつかりましたか?」と聞くと平均推定速度は34キロにまで遅くなりました。
これは、「壊れたヘッドライトがありました」、「激突」、「ぶつかった」などの単語によって記憶が書き換えられることをあらわしています。
これは一種の誘導尋問と言えるでしょう。
また、1週間後に同じ被験者を集め、「割れたガラスを見ましたか?」と質問したところ、「激突」という言葉を使って質問をされた人の32%が「はい」と答えたのに対し、「ぶつかった」という言葉を使って質問をされた人は14%しか「はい」と答えませんでした。
実は、このとき被験者に見せたビデオには割れたガラスなどどこにも映っていませんでした。
つまり、存在していないものを勝手に記憶に植えつけてしまったということです。
ところで、刑事ドラマなどでは写真帳のようなものを目撃者に見せ、「この中に犯人はいますか?」と問いかけるシーンが出てきますよね?
実際に目撃者はこのようにして写真を見せられるそうですが、これはあまりよい方法とは言えません。
北海道大学の仲真紀子教授が、ある人物を複数の顔写真から捜し出してもらうという実験を行ないました。
その結果、事前に300枚のダミー写真を見せられると、正答率が約2割も低下することがわかったそうです。
つまり、写真を見せられれば見せられるほど記憶は曖昧になるということ…
選択肢を増やしたい気持ちはわかりますが、それでは真犯人逮捕が遠のくばかりです。
目撃証言がいかに曖昧かは、アメリカの心理学者オルポートが行なったある実験でも証明されています。
その実験とは、被験者たちに、ある2人の男性が言い争っている絵を3秒間見せた後、「どの男性がナイフを持っていましたか?」と質問し、検証するというものです。
絵に描かれていたのは、白人男性と、黒人の大柄な男性でした。
実験の結果、半数以上のアメリカ人が、「黒人の男性がナイフを持っていた」と答えました。
これは、何らかの偏見を持っていると、証言が変化することをあらわしているのです。
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