「神の子」イエス・キリストと悪魔は本来、敵対するものです。
少なくとも一般のキリスト教ならば、両者にわずかでも共通項があるなどという話は受け入れられないでしょう。
しかし驚くべきことに、イエスと悪魔(サタン)が血をわけた兄弟であると主張したキリスト教宗派がかつて存在しました。
それは、10世紀から14世紀にかけてブルガリアを中心として、バルカン半島で隆盛を極めたボゴミール派という一派です。
このボゴミール派の教義は、次のようなものとなっています。
太古の昔、神にはふたりの息子がいました…
ひとりはサタナエルという天使であり、もうひとりはイエスです。
あるときサタナエルは神の地位を奪おうと叛逆するも失敗し、天界から追放されてしまいます。
こうして堕天使=悪魔(サタン)となったサタナエルは、神の創った天界に対抗するため地上世界を創造…
さらにその地上世界に人間を創り、その人間たちに自分を神として崇めさせるよう仕向けました。
つまり、ボゴミール派では、世界と人間を創ったのは悪魔だとしているのです。
だからこそ、地上には戦争や病気、災害などの苦しみが溢れているのだといいます。
そして、この苦しみと偽の神による支配から人間を救い出すために、真の神が地上に送り込んだのがイエスであるというのが、ボゴミール派の主張でした。
当然、このような教義は正統キリスト教徒から見れば冒涜的なものであり、ボゴミール派は異端として激しく攻撃されました。
しかし、それでも一時期は信者の数も多く、その勢いは正統派をもしのぐほどであったといいます。
しかし、ブルガリアがイスラム教国のオスマン帝国に支配されると、次第にボゴミール派は衰退していき、やがて完全に消滅…
現在、この派の教義をそのまま受け継いだようなキリスト教宗派は存在していません。
ちなみに、ボゴミール派は、物質や肉体をすべて悪と見なす古代のグノーシス主義の影響を強く受けていたともいわれています。
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