キリスト教には様々な聖人がいるが、勇敢にもドラゴンを退治したという伝説を持つ聖人がいます。
それは、聖ゲオルギウス(英語では聖ジョージ)という人物です。
ゲオルギウスは、3世紀頃のカッパドキア(現在のトルコ近辺)に生まれたとされて、若い頃は軍人として出世を重ねていたが、あるときキリスト教と出会い改心地位も財産もすべて捨て、以後、伝道の生活に入ったと言い伝えられています。
伝説によれば、その頃カッパドキアには1匹の巨大なドラゴンがおり、毒を吐いて大地を枯らし、通りかかる人を次々にかみ殺していたといいます…
困り果てた住人たちは、1日に2匹の羊を生け贄として捧げることで、獰猛なドラゴンをなんとか鎮めようとしました。
しかし、ついに羊が1匹もいなくなり、住人たちは仕方なく、人間を生け贄に捧げることを決意…
生け贄は公平にクジで選ばれることとなったのですが、そのクジを引いてしまったのは、なんと王の娘であったのです。
娘を不憫に思った王はドラゴンに対し、「娘の代わりに王宮のすべての財宝を差し出す」と申し出ましたが、ドラゴンはそれを拒絶…
ただ、8日間だけの猶予を与えると王に告げたのです。
ちょうどそんなときに、伝道の旅の途中にあったゲオルギウスが、この土地を通りかかります。
王が悩み苦しんでいるのを見たゲオルギウスは、「自分がドラゴンを退治しよう」と申し出ますが、キリスト教徒ではなかった王は、はじめゲオルギウスの力を疑いました。
しかし、他に良い方法も見つからなかったため、藁(わら)をも掴む思いで申し出を受けいれることにしたのです。
王の依頼を受けたゲオルギウスは、槍を1本だけ持ちドラゴンのもとへと向かいました。
やってきたゲオルギウスを見つけたドラゴンは、毒を吐きながら、かみ殺さんと襲い掛かってきましたが、大きな口を空けた瞬間、ゲオルギウスは槍をドラゴンの口の中に差し込み、閉じられないようにしてしまうのです。
それからゲオルギウスは、王の娘の帯でこの怪物を縛り上げると、人々の前まで引きずっていきました。
そうして、「あなたがたがキリスト教徒になってくれるのなら、今すぐこのドラゴンを殺しましょう」と宣言するのです。
凶暴なドラゴンを退治してくれたことに感謝した王と住民たちは、その場でキリスト教に入信することを快諾…
こうしてゲオルギウスは、いっぺんに2万人ものキリスト教徒を獲得したといいます。
その後、ゲオルギウスは各地を放浪しながら熱心に伝道を続けていましたが、あるとき異教徒の王に捕まり、酷い拷問を受けた末に処刑されてしまうのですが、死の直前に王妃をキリスト教徒に改宗させることに成功するなど、最後まで伝道者としての任をまっとうしました。
それらの功績により、後にゲオルギウスは聖人の列に並べられることとなったのです。
ちなみに、キリスト教においては、ドラゴンは邪悪なものの象徴とされています。
エデンの園で禁じられた果実を食べるようイヴを誘惑したのは、一般的には蛇ということになっていますが、その正体は実はドラゴンであったという説もあるくらいです。
また、「ヨハネの黙示録」には、悪魔(サタン)が赤いドラゴンの姿で出現し、神の軍団との最終決戦を行うと記されています。
そんな邪悪の象徴であるドラゴンと単騎で戦ったゲオルギウスは、最もキリスト教らしいヒーローと言えるでしょう。
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